同作品がフラメンコをモチーフにしているということは、前回の記事で述べた通りである。
バルトークが民俗音楽を西洋音楽の語法で記す際に、ドビュッシー的な近代和声をはじめとして、教会旋法など、既存の様々な音楽との折衷を試みたことはよく知られている。
今回は、そのような視点から、ナポリの第6音とフラメンコの関係について調べてみる。
1. ナポリの第6音
ナポリの第6音とは、下属和音(サブドミナント)の第5音が上方転移し、根音から短6度をとるもの。
このような手法が17世紀ナポリの作曲家を中心に多用されたため、「ナポリの第6音」という名称になっている。
このナポリの第6音の効果は、通常の下属和音では得られない「高揚感」である。
この感覚はどこに由来するのか。
次項で、そのルーツを探ってみよう。
2. フリギア旋法
教会旋法のひとつにフリギア旋法がある。
すなわち、ミから始まる音階、ミファソラシドレのことである。
特徴は、「フリギアの2」と呼ばれる第2音が、主音に対して短2度の音程を取っているところである。そのため、「フリギアの2」は、「上からの導音」として扱われることもある。これにより、浮遊しているような感覚が得られる。
参考:フリギア終止
フリギア旋法とナポリの第6音の関係は説明できない。しかし、両者の共通点はフラメンコにおいても見られるものである。
3. ミの旋法
フラメンコでは、フリギア旋法によく似た音階が使われている。それを「ミの旋法」と呼ぶ。第3音のGをGisとする場合もある。
直接の因果関係は不明だが、これがフリギア旋法に由来すると考えられるかもしれない。
また、Aを主音とする「ラの旋法」も上の旋法に次いでよく使われる音階である。
このように並記してみると、「ラの旋法」は、イ短調におけるナポリの第6音を含む音階とほぼ同じである。
最後に、「アンダルシア終止形」(IV-III-II-I)をラの旋法で記しておこう。
民俗音楽では、このように旋律に和声が付けられ、そのまま平行移動するような場合も多い。もちろん西洋音楽の文脈では洗練された響きになるように細心の注意が払われている。
この「アンダルシア終止形」では、II-Iの動きが旋律だけでなく、和声で肉付けされることによって、ダイナミックな「高揚感」と「浮遊感」を表現することに成功している。
4. まとめ
歴史的な経緯をここで述べることはできないが、作曲家がフラメンコの音階を用いる場合、上記のナポリの第6音やフリギア旋法によって、その民俗音楽的な要素を西洋音楽の語法で記すことができる。
すなわち、バルトークらの民俗音楽の開拓者はこのような試行錯誤を重ねていったということであり、20世紀の音楽における貴重な遺産である。
この民俗音楽と西洋音楽の折衷について、今後も探究を続け、理解を深めていきたい。
5. 参考文献
マヌエル・グラナドス『フラメンコギタ-アカデミック教本』、RGB Arte Visual、2013年。パップ晶子『バルトークの民俗音楽の世界: 子供のためのピアノ作品を題材に』、音楽之友社、2015年。
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