(久保田孝氏のHPにある楽曲解説はこちら)
筆者は以前、久保田孝氏による本作品の指導風景を見学させていただいたことがある。
その中で、久保田氏がフラメンコの要素を、ギターやマンドリンのアーティキュレーションに求められていたことを覚えている。
もちろん、本作品は、久保田氏の留学時に耳にした様々な民族音楽がベースにある。
その中でも、この記事ではフラメンコについて考察したい。
1. フラメンコとは何か?
フラメンコの歴史は不明な部分が多く、その起源については謎が多く残されている。その担い手となったのは、アンダルシアに住み着いたジプシー(ヒターノ)である。
1842年には、フラメンコを呼び物とする酒場として、セビリアに「カフェ・カンタンテ café cantante」が現れる。踊り手はジプシーたちであった。
フラメンコが国際的に広まったのは、20世紀初頭と言われる。
1922年、作曲家として著名なマヌエル・デ・ファリャ、詩人ガルシア・ロルカの両人が、フラメンコの再生を目指し、「カンテ・ホンドの祭典」を開催した。グラナダ市や芸術センターの後援もあり、アンダルシア一帯からフラメンコの歌い手が集結し、スペイン内外の人々にフラメンコの真価を示したのである。
さて、フラメンコには幾つかの要素がある。
まず、歌である「カンテ cante」、
次に、踊りである「バイレ baile」、
さらに、ギターの演奏である「トーケ toque」、
このほかに、手拍子の「パルマ palma」、指鳴らしの「ピトー pito」、掛け声の「ハレオ jaleo」がある。
これらが一体となったものがフラメンコとして知られている。
この中の「カンテ」について、「カンテ・ホンド(深い歌)」という言葉がある。
2. 「カンテ・ホンド(深い歌)」とは何か?
「カンテ・ホンド cante jondo」とは、アンダルシアの民衆歌謡の中でも最も伝統的な形式を備えた歌である。そのジャンルは、シギリージャ、ソレアー、トナー、ティエントなどがある。
「シギリージャ」:「タン・タン・ターン・ターン・タッ」という変則的な5拍子の舞曲。
「ソレアー」:2拍子と3拍子の混合リズムであり、12拍子をひとつのまとまりとする。
「トナー」:最古のカンテであり、無伴奏。一定のリズムを持たない。
「ティエント」:ゆったりとした2拍子系のカンテ。
この復興に携わった第一人者がガルシア・ロルカでり、上記の「カンテ・ホンド」の祭典の主催をし、著作には詩集『カンテ・ホンドの詩』がある。
彼の「カンテ・ホンド」についての言葉を挙げよう。
「私たちの『神秘的な魂』の、もっとも感動的で深い歌の数々なのです。私たちの歌心のいちばん輝かしく結晶した部分なのです」
「それは死んだ幾世代もの叫びです。消えた幾世紀もの、突き刺す哀歌なのです。ほかのさまざまな月、ほかのさまざまな風のもとでの愛の、悲痛な追想なのです」
アンダルシアの最も「神秘的な魂」の、もっとも感動的で深い歌であり、死んだ幾世代もの叫び、それが「カンテ・ホンド」である。
3. まとめ
久保田孝氏が、どのようなフラメンコの作品から着想を得たのかは定かではない。しかし、フラメンコには、伝統的な形式があり、スペインの「神秘的な魂」がある。
このような精神性をはらむ豊かな音楽性が「舞踊風組曲第2番」には存在し、そこに「深い歌(カンテ・ホンド)」があるということを我々は知っておきたい。
4. 参考文献
中丸明『ロルカ−スペインの魂〈集英社新書 0053F〉』、集英社、2000年。ロルカ生誕百周年記念実行委員会編『ロルカとフラメンコ−その魅力を語る』、彩流社、1998年。
(株)イベリアHP(http://www.iberia-j.com/)
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